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シナイ半島と十戒

 エジプトのファラオによる圧政からヘブライ人を助け出したモーセは神の奇跡によって紅海を割り、エジプトからの脱出を成功させた。「出エジプト」後は、シナイ半島へと渡り、シナイ山で神から「十戒」を授かった。そして約束の地カナンを目指した—。エジプト北東部、アフリカ大陸とアラビア半島の間にある三角形のシナイ半島は、モーセのゆかりの地として聖書に登場する神聖な土地だ。
 しかし、現代はイスラム教武装勢力が跋扈する危険な地域となっている。11月24日、武装集団がシナイ半島北部にあるモスクを襲撃し、300人以上が死亡した。エジプトでは過去最悪規模のテロ事件で、IS(イスラム国)の傘下組織の犯行とみられている。イスラム教徒がイスラム教徒を襲うのだから、宗派間の対立が疑われるが、いまだに犯行声明が出ていないことが、不気味なメッセージとなっている。
 外国人による観光が主要産業であるエジプトはテロ対策が経済政策の成否を占うと言っても良い。過去にはイスラム教原理主義組織が世俗化路線の政府に打撃を与えるため、主要観光地を襲撃し、日本人を含む外国人を殺害した事件もあった。
 今、中東が極めて不安定化していることは、シリア内戦がいつになっても終わらないことが証明している。スンニ派の大国サウジアラビアとシーア派の盟主イランがシリアの反政府組織と政権側をそれぞれ支持する代理戦争を繰り広げているが、イエメンの内戦でもサウジが暫定政権、イランが反体制派武装組織「フーシ」の後ろ盾となっている。
 そこに中東での影響力を維持したいアメリカ、そしてアメリカに代わって影響力を発揮したいロシアがそれぞれ武力介入している。イスラエルやトルコも自衛のために介入するなど、各国の利害、宗派や民族の対立なども複雑に絡み合っている。
 シナイ半島での過激派組織の暗躍も、中東の不安定化の流れの中のひとつの事象であり、このまま不安定な情勢が続けば、シナイ半島はISの拠点となりうる危険性をはらんでいる。
 中東の安定化に向けては、サウジとイラン、アメリカとロシアが手を携えるしか、他に方法がないのだが、サウジとイランは断交中だし、米ロは連携どころか対立ばかりが目立つ。安定化の兆しさえ見えない。殺してはならない、盗んではならない、隣人の家を欲しがってはならない—と、十戒を授けられた地で起きる醜い争いに、モーセは何を思うのか。

2017年12月04日 15:53 |


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