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新しい元素の発見

 「水兵リーベ僕の船、七曲がりシップス、クラークか」と何やら呪文のような言葉を理科の授業で教えられたのは中学生の頃だっただろうか。
 水素(H)、ヘリウム(He)、リチウム(Li)、ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)…、と周期表の元素記号を覚えるための呪文だった。先生によって教え方は様々で、中学生なら少し赤面するような呪文もあった。
 小生は「クラークか」の最後のカルシウム(Ca)までしか覚えられず、これは原子番号の20番目にあたる。
 元素は「これ以上分解できない物質」を指し、自然界に存在するのは原子番号92番のウランまで。93番のネプツニウム以降は加速器などを使って合成し、現在は118番目まで発見されている。
 8日、理化学研究所のチームが発見した原子番号113番の新元素の名前が「ニホニウム」となることが明らかになった。元素記号は「Nh」となる模様だ。
 30番の亜鉛と83番のビスマスという金属の原子核を衝突させることで合成する。原子核の大きさは1000億分の1㍉というから衝突させること自体難しいうえ、衝突によって合成される確率は100兆分の1という。おまけにニホニウムの寿命はわずか1000分の2秒というから、誕生した瞬間に消滅する。600日かけてもたった3個しか作れないから、理化学研究所のチームを統括した森田浩介グループディレクター(九州大教授)は「日常生活には役に立たない」と断言している。
 しかし、周期表の元素の新発見を欧米とロシアが独占してきた中で、初めてアジアの国が名乗りをあげたことに「大きな意義がある」としている。
 「日常生活には役には立たない」—。科学者のこの言葉は面白い。物理学者の小柴昌俊氏が「ニュートリノ」と呼ばれる素粒子をとらえることに成功し、2002年にノーベル物理学賞を受賞した際にも「何の役にも立たない」ときっぱりだった。
 学術成果が社会に役立つか、経済に貢献するのかを考えるのは企業であり、科学者は目の前にある不思議な現象や、新発見の追究に情熱を注ぐに過ぎない。その姿勢が科学の基礎や土台を進展させる。
 今度の「役に立たない」研究の成果を、科学技術の恩恵に浴する一市民として大歓迎するためにも、水兵リーベ…の先、ニホニウムが登場する元素記号周期表の第7周期の呪文の早期作成を願う。

2016年06月10日 16:12 |


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