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悪魔の連鎖と原子力ムラ(見聞録)

 民間の有識者でつくる福島原発事故独立検証委員会が27日公表した報告書。官邸の場当たり的な指示で事故現場が危機的状態を迎えていたことが明らかになったが、「悪魔の連鎖」「最悪のシナリオ」と呼ばれる原子力災害の恐ろしさと、「原子力ムラ」の構造的問題が注目される。
 「悪魔の連鎖」は福島第一原発事故により放射性物質が広がると、福島第二原発や日本原子力発電東海第二原発といった近隣の原発にも近づけなくなり、被害が拡大することを指す。委員会の聴き取りに枝野幸男官房長官は「1(福島第一)がダメになれば2(福島第二)もダメになる。2もダメになったら今度は東海もダメになる、という悪魔の連鎖になる」と証言した。
 また、近藤駿介原子力委員長が作成した「最悪のシナリオ」では、使用済み燃料プールが空だき状態になり、そこから放射性物質が放出された場合、住民の強制移転が半径170㌔以遠に及ぶ可能性が指摘され、東京都民も逃げ出さなければならなくなる。当時の菅直人首相は「放射性物質がどんどん出続けたら、東日本全体がおかしくなる」と話したという。
 官邸アドバイザーは「人間の力ではコントロールできないものと向き合っていた」と当時を振り返っている。
 それほどの危険性をはらむ原発が、なぜ、津波を被っただけで電源を喪失する粗末な防御体制だったのか。
 その背景は「原子力ムラ」に代弁される構造的問題が指摘される。
 原発推進は、産業界と官僚の癒着だけで成り立っているわけではなく、原発事業者は献金を通して国会議員や地方議員に影響力を保持し、新聞やテレビなどのマスコミに積極的に広告を展開することで、国民の意識を原発に肯定的に洗脳。スポンサーという立場からマスコミに批判されにくい土壌をつくった。
 地方では、原子力産業が地元の雇用を支え、自治体には電源3法に基づく交付金、電力事業者の固定資産税や寄付金が潤沢に入った。委員会は、住民が原発を嫌悪するどころか共存を選ぶ構造になったと指摘している。
 つまりは、この構造が外部の批判を寄せ付けず、事故対策に向き合うことを敬遠させた。
 さらに、原発への安心感を演出する施策もあった。例えば、放射性物質の飛散を予測するシステム「SPEEDI」。福島第一原発事故では北西方面に飛散すると予測されたが、住民に伝わることなく、まったく生かされなかった。委員会は「原発を維持し、住民の安心を買うための『見せ玉』にすぎなかった」と記している。
 そういえば、滋賀県の嘉田由紀子知事が昨年5月以降、文科省にSPEEDIの情報提供を再三求めたが、文科省が提供を決めたのは12月になってからだった。事故後もなお、内向きの「原子力ムラ」が機能していることを裏付けている。
 この「原子力ムラ」の解体こそが、新しいエネルギー政策の議論のスタート地点になるのではないだろうか。
 28日の朝刊各紙は官邸が事故現場の混乱を引き起こしたと強調しているが、委員会の報告を読むにつけ、原発を取り巻く歪んだ構造が事故の遠因にあることが分かる。

2012年02月28日 21:06 |


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