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就活と大学生の悲劇

 鹿児島大学の学生が大阪での就職活動を終えて夜行バスで帰る途中、走行中のバスを横転させたという恐ろしい事件が起きた。
 逮捕された学生はスーツを着用し、持っていたカバンの中には会社の説明会の資料があり、就職活動の悩みから乗客を巻き添えにして自殺を図ったのではないか、と捜査関係者は事件前後の本人の言動などを調べている。
 死者はなかったが、ケガ人はあり、広島県警は殺人未遂の疑いで調べている。大学生だから頭が悪いわけではない。死ぬのは勝手だが、自分の死に他の人を巻き添えにするのは許されぬことである。
 そういう常軌を逸した行為が人を不幸にし、自らの人生を否定することにつらなるのであるが、この学生はそこに気づかなかった。
 就職に悩むことはあり得ることで、今のような厳しい就職戦線下にあってはどの学生だって不安や悩みは抱えている。
 その不安や悩みに打ち勝って、局面を転回してゆくのが若ものの強さであり、特性でもある。
 就職への希望を断ち、他人さまを巻き添えに自分の生命すら捨てるというのは賢いはずの学生にあるまじき行為で、ぼくの診断でいうならば病気である。
 心の病であり、こういう行為は普通の人間の普通の常態では起き得ぬことであるが、不幸にもこういう心の病者が増えていることを正視しなくてはならぬ。
 心の病気は強弱のほか複雑多岐にわたり、季節の変化や置かれている環境によって発症することもあり、千差万別、いちがいに処方することは困難である。
 足が悪ければ歩行が困難になり、胃腸が悪ければ食欲や体調に反応する。風邪をひけば熱があるとか、普通の病気は症状が外に出るし、本人はもちろん、周りの者も治療することに関心を持つが、心の病気は外からは見えないのが悲しい。周囲も分からないが、病む本人もそれに気づかないから厄介である。
 それも人それぞれ、程度の差があって、いちがいにはいえないが、文化の落とし穴といえるのか、文明を謳歌しながら今の世は心の病者が非常に多くなっている。軽度の鬱や躁を含めると、現代人は非常に不安な世を生きていることになる。
 なぜ、そういう不安な不安定な世を生きているのか。これが問題である。
 分かり易くいえば、現代人は文化生活を享受し、十分な教育を受け、アタマはよいが脳は健康ではない。それは身体にもあてはまる。身長、体重、胸囲は伸び、体格はよいが体は弱い。その原因は何か。一口にいえば反自然の生活をするようになったからである。
 いまの人生は甘えの生活の連続である。悪いことは政治のせいにする。これも甘えである。受験地獄も就職氷河も保育所待機も世の中が悪い、政治が悪い、とみんなひとのせいにする。
 そもそも現代は、人間の生まれ、育つ環境そのものが狂っている。生まれた子は昔から「三つ子の魂百まで」といわれるくらい、赤ちゃんから幼児期は母親の手で育てられた。
 それが今は生後3カ月、6カ月くらいから乳児施設に預けっ放しである。母の愛情に欠け、家族の共同生活の中での人間の基礎的モラルを学ぶことがなくなった。
 そして、人間の血や肉を自然の恵みから頂くのではなく、人工の餌や加工食品、クスリ漬け、化学物質を口にしているのである。
 ひとごとと言わず、反省したいことである。【押谷盛利】

2011年02月28日 15:49 |


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