天寿と温室育ちの子
どんな健康な人でも何かのきっかけで倒れたり、思わぬ病気で寝込むことがある。
今年92歳の知人のおばあさんは100歳まではピンピンしているだろうと言われていたが、ある日、家の中で転んだ。その結果、寝付くことになり、家での介護が難しくなって老人ホームへ預けられた。
これもぼくの知人のお年寄りだが、先年、93歳で死亡した。卒寿を全うし、めでたいことですね、ぼくが言うと、世話をしていた知人は「確かに亡くなったのは93歳ですが、10年間は痴呆で、それもだんだんひどくなり、こちらが倒れるばかりの介助の24時間でした。長寿で喜んだのは80歳までで、以後の13年間は地獄の毎日でした」としみじみ回想していた。
世の中には自宅で人生を全うしたいと思ってもそれが許されず、施設へ送られる人が圧倒的に多い。かりに長男が自宅介護を思っても実際に世話をする息子の妻や家人が反対すればそれはかなわないし、かりに親孝行の息子夫婦が介護に尽くしても5年、10年もすれば介護する方が肉体的に悲鳴を上げるかもしれない。
長浜市の山久の先代社長は92歳で亡くなったが、その死はあっけなく見事だった。
常から病気知らずの達者で、80歳代になってからでも神前町の自宅から八幡中山の会社まで歩いて通ったという元気さ。ところがある日、夕食後、寝床へ行って、そのまま不帰の客となった。これこそ本当の天寿の全う者である。
ぼくは10日の時評で「外材と日本人の身体」について書き、「日本人はみな弱い。外材なみである。弱いけれど近代医療でもたしているだけである。医療費が増えるのは当然である」と結んだ。それを立証するように老人の介護療養施設はどんどん増えてゆくし、市内至るところに大型のクスリ店が進出している。
病院、医院、診療所の充実のほかに接骨院、整体院、マッサージ院等が増えた。新聞や雑誌、テレビには医療関係の情報や健康食品の宣伝が花盛りである。
今の日本人の体は農業のハウス栽培による野菜を連想する。たっぷりと肥料を与えられ、冬でも春や夏のように温かくし、潅水もほどほど、病害虫にやられぬよう除草剤や農薬を使って育てられているから成長は早くて立派に。市場ではもてもてである。
しかし、うまみや化学薬品の汚染度から言えば露地の自然栽培には勝てない。露地栽培の野菜に限らず、雨、風、雪に叩かれて苦労した日本の山の木は強い。温室育ちは人間でも弱い。幼児教育この方、日本の子どもは家庭でも学校でも温室育ちであるが、これでは体も心もたくましくはならない。【押谷盛利】
2010年03月12日 15:58 | パーマリンク
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