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一流と三流の混在時代

 大工には鉋と鋸が生命であるが、このほかにも手斧や鑿、錐など大切な道具がある。
 大工の親方を棟梁というが、昔の棟梁は今のような綿密な設計図は持たなかったが、それでも200年、300年もの耐用を誇る寺院や住宅を建てた。
 鉋のないころは、手斧がその役割を果たしたが、ちょうなは今も「ちょんな」の名で親しまれている。
 道具が一人前揃い、そして立派な設計書やそれに基づく材料が支給されたからといって、必ずしも立派な建築が建つものではない。そこには目に見えぬ職人の総合的な技術が要求されるからである。
 木造建築の基本は材木大工であるが、その前提の用地と基礎工事は不可欠であり、総合建設の場合、壁、屋根、樋、戸、障子、電気、上下水道、排水工事、冷暖房など多種多彩な工事と専門職人の技術をまたねばならぬ。
 このごろ、問題になるのは材料は支給されてもそれを使いこなす職人が不足していることである。逆にいえば、部品メーカーの指示に従えば特技のある専門職人でなくても、つじつまを合わせてどうにか格好がつくのである。つまりは玄人と素人の隔たりが薄くなった。
 住宅メーカーの説によれば築後20年保てば上々で、多くはそのころ移築するのが一般という。安かろう、悪かろうが、現代のあらゆる商品の潮流かもしれないが、それが勝ち抜き合戦の必勝法かといえば、左にあらず、といいたい。
 早い話、レストランや料理屋で、あそこの飯はうまい、うまくないがよく話題になる。うまい飯は使用する産地の米にもよるが、一番大事なのは炊飯の技術である。
 炊く釜や鍋にもよるし、水も重要な条件である。それにカマドで炊くのか、電気ガマなのか、ガスガマか。カマドの場合、燃料は割木か炭か、柴かも無視できぬポイントであり、さらには蓋の圧力、火の加減、炊き上げた後の保管、保温も味に関係する。
 これらを総合すればやはり、飯を炊く技術、専門職の領域となり、一流の板場はそれらにやかましい。
 昔のお母さんは、おばあさん、その前の代の大ばあさんらのやり方を見習って、いわばわが家の伝統の味を継承してきたが、今はそれがない。スイッチ一つでテレビを見ながら、昼寝しながら飯が炊けるからである。
◇話を元へ戻すが、大工がいい仕事をするのはいい腕を持つからで、その腕前は口で説明しても身につくものではない。
 鉋にしろ、他の道具にしろ、使い方に骨があるが、そのコツは先輩職人の作業や姿の中から自ら発見し会得するもので、説明を聞いて身につくものではない。
 2年、3年の徒弟時代の辛苦研鑽がちょっとしたきっかけから先輩を乗り越えるほどの技術のコツにつながるのである。
 その点でいえば、現代は職人不足のマニュアル時代であり、一流と三流の混在する時代である。たとえ一時的にはもうからなくとも、専門の技術に支えられた一流のものが最後には勝利するのではなかろうか。
 それは大工や板場の領域のみならず、学校の先生やお寺の住職にも、さらにいえば新聞記者にもいえることだろう。【押谷盛利】

2010年01月06日 14:50 |


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