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キレル・キレナイの問題

 厚生省の元次官夫婦を殺した男。第3、第4の襲撃を計画したが警戒が厳しくて諦めたという。子供のころ飼い犬を殺された保健所へのうらみからというが、飛躍がありすぎてつじつまが合わぬ。
 なぜ、元高級官僚を襲ったのか。それを追及しても結果は出ない。ナンセンスである。
 なぜなれば正常な糸が切れているからである。このことは初期の痴呆症を体験している家族は知っているが、健全な意識を持っているつもりが、ある日、あるとき、人間が変わったようにトンチンカンなことを言ったり、自分の行動や家族の顔さえ忘れたりする。
 糸が通っているときは正常だが、切れたとたんにおかしくなる。夜の徘徊だって、切れたときの行為で本人は知らない。
◇このごろ、社会生活が極めて物騒なのは、いつ「キレル」か、分からぬ人がうようよしていることである。風邪のように咳が出るとか、熱がある、といった症状であれば、本人も家族も手当てが出来るが、「キレル」、「キレヌ」は、精神の世界だから本人も家族も世間にも分からぬ。
 ある日、突然、おかしくなって、人を殺傷したりするが、偶然というか、居合わせた被害者こそいい迷惑である。
◇今回の事件、小泉なる容疑者は46歳にもなって何をしているのか。無職、無収入なのに家賃の滞納もなく都会の真中で暮らしていた。暴力まがいの恐怖の言動が伝えられているが、都会生活の闇の部分は茫として霞の彼方である。
 彼は官僚に敵意をもって悪しざまに言っているが、世間にはバカがいて、彼の行動を英雄的とばかり憧れる奴がいるかもしれない。そういうバカに連鎖反応する恐れもあるから切れた男の言葉をまともに無条件に報道することも考えものである。
◇なにはともあれ、不快なこの事件から、われわれはお互いに学ぶべきものを発見しなければならぬ。
 この男の家庭環境はどうだったのか。親はどんな暮らしで、どんな子育て、どんな教育をしてきたのだろうか。宗教や他人との交際、友人関係、親類縁者との関わり・・・などをつぶさに点検分析することの必要性は幼児から、青年期以後の人間の精神生活に大きな影響を持っていると思われるからである。
◇彼は大学を中退しているが、その原因は何だったのか。中退後の歩みなどを知ることは犯罪者心理を研究する上で重要なことである。
 人は孤独では生きられぬというが、これまでの情報の限りでは妻帯の経験もないようだし、恋人も浮かんでいない。仲のよい友人もいなければ話しあう社会的場も持っていない。唯一、孤独から逃れる道はテレビやパソコンかもしれないが、夜の風俗の世界だって、パチンコだってカネがあれば遊ぶ世界に不自由はしない。
 彼の孤独を支えてきたのは何か。それを追及することも犯罪予防の手段でもあろう。
◇ぼくは、彼が生まれて少年期になるまでにどんな暮らしや家族環境、社会環境にあったのか、それが知りたい。さらに言えば、生まれる前の父や母の人柄などについても興味しんしんである。
 父母や家庭、地域社会は子どもの精神形成に大きく関わるからである。分かり易くいえば、よい食品がよい肉体をつくるように、よい環境がよい精神をつくるからである。
 残念乍ら、戦後の日本は精神的生活環境がだんだん悪くなっているし、肉体的食生活環境も悪くなっている。このような好ましからざる環境の悪化は好むと好まざるに関わらず、日本人をクスリ漬けに追いやり、その結果がさまざまな薬害を招く。肉体と同時に脳細胞への影響が精神の健康を破綻させる。鬱現象もその一つだが、「キレル」現象もこれによる。【押谷盛利】

2008年12月01日 15:57 |


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