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いちやつきの言葉遊び

 男女が、でれでれするのを「いちゃつく」というが、明治時代の文語文は「いちやつく」と書く。
 明治に入って、文学者の間で、文章の文語体に疑義を唱える人が増え始めた。それまでは役所の文章、手紙文、作家の評論、小説など、すべてが文語体だったが、文章はもっと安易でなければ、との世論が高まり、作家や詩人の中から言文一致運動が高まり出した。
 つまり、話し言葉のように文章も口語体にするべきだという文体論である。明治後期から大正、昭和を経て、小説や評論等から文語体は消えたが、今も詩歌の世界では文語、旧かなに固執する歌壇や歌人、俳人が多い。
◇戦後教育を受けた団塊世代以降の人は口語文と新かなづかいに馴れているから、明治文学に接する場合、違和感というか、不可解なところがあり、わずか50年~80年の差であるが現代文に翻訳しなければ読めない人が多くなった。
 ぼくは古典の勉強も兼ね、先人の国語になじみたく、短歌や俳句では旧かな、文語調を用いるが、それでも自由な表現を学習するため口語、自由の新短歌の結社にも入っている。面倒ではあるが、表現者としての自己鍛錬と思っている。
◇さて、文語、旧かな体の「いちやつく」を通じ、少し日本語の面白さを味わいたい。
 いちやつくは、漢字にすれば「一夜撞く」、「一夜突く」、「一夜漬く」、「一夜搗く」、「一矢付く」、「一夜浸く」、「一屋浸く」など幾つかが挙げられる。
 一夜撞くは一晩中鐘を撞くことを意味するが、よく似た言葉の「一夜突く」は意味深長であり、何を突くのか、目的格の言葉がないから分からない。
 槍の稽古で一晩中、藁人形を突くことも想像されるが、新婚夫婦のベッドシーンに思いを寄せる人もあろう。
 鐘を撞(つ)くの「撞く」も鐘に仮託、ともとられる。吊り鐘は撞木(しゅもく)で撞くから、撞木を男性にたとえた情歌の世界である。
 「一夜漬く」は、一晩漬ける、の文語表現で、いわゆる一夜漬けのこと。
 「一矢付く」は、一本の矢が鎧(よろい)の一部に刺さって、それが抜けずに付着しているという意味にとることが出来よう。
 「一夜浸(つ)く」は豪雨の浸水を念頭に浮かべれば理解しやすい。一屋浸くは、一軒の家が水浸かりというわけ。
◇思いついたまま言葉遊びをしたが、手紙における候文(そうろうぶん)も勉強すれば面白く痛快である。
 「当方、無事に罷(まか)り在(あ)り候へば御安心被下(くだされ)度(たく)候」
 こちら無事に過ごしていますゆえ、ご安心下さいませ。
 動作や存在の敬語に「ござります」があるが、候文では「御座候」。【押谷盛利】

2008年11月17日 18:22 |


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