医療と医師不足の問題
夜中に救急病院をたらい回しにされた挙げく、8軒目の病院に着いたころは手遅れで死亡した、という妊婦の悲劇が東京で起きた。
東京という大都市であるだけに国民のショックは大きい。
東京の一局集中は、かねてから日本のいびつとして問題になっているが、石原慎太郎氏が知事になってから、政治家が恐れをなしたのか、首都移転論などが消えてしまった。首都移転は大きすぎるので国会及びその関連機構を移転しては、などの意見も出て、一事は東北地方、東海地方などに移転候補地を模索する動きもあったがいつの間にやら立ち消えてしまった。
◇東京は政府など行政が霞ヶ関に位置し、立法機関の国会が永田町。網の目の地下鉄やJR、私鉄など各地のターミナルを中心に大学、病院、商業地が立地し、その他、国単位の政治経済、文化、労働の連合組織や府県の出先、大会社の本社、各種団体が群がっており、加えて外国の公館もあってさながら日本国の縮図となっている。
首都圏の膨張は止めようとしても止められぬ勢いであるが、その反面、社会不安の危機をはらんでいる。
◇医療問題もその一つであるが、人口が多いだけに医療の需要はますます上昇する。しかし医師の東京集中にも拘わらず、患者の対応が充分とは言えない。今回の事件が示すように東京でもお産が不安になった。
日本は高齢化時代を迎え、老人介護施設の増設、新設が盛んであるが、医療現場においては医師の意識変革があって、例えば産科を回避する傾向や公立病院の医師不足が問題になっている。産科の医師が不足すれば総合病院でも産科を縮小閉鎖するところが出てくる。
当然ながら開業医の産科も少なくなる。それに看過できぬのは、土、日、祝日などにおける当直医の不足である。
つまりは、医療施設そのものは近代化し、整備されたが、それを利用して医療行為をする医師不足が問題なのである。
◇医師の意識変革の一つは「医は仁術」であるとの崇高な精神が消えて「医は算術」になり下がったこと。
いま一つは医師の日常生活への欲求であろう。ことに産科や外科は急を要する患者が相手だけに、夜中に呼び出されたり、対応しなければならぬケースがある。
家族と気晴らしに旅行することにも内心不安を抱えることもある。普通のサラリーマンのように9時出勤、5時退勤というようなリズミカルな勤務は困難で、常に担当の患者の病態を忘れることは出来ない。
第三はこのごろ恒常化している医療トラブルの問題があある。医療ミスの追及が莫大な補償金沙汰になることもあり、そうした危険を伴う産科や外科から遠ざかる傾向が医師の卵に芽生えているのも事実である。
◇医師不足は地方には特に深刻である。本県においても彦根市民病院、長浜市民病院、湖北総合病院などいずれも医師不足に悲鳴をあげている。
それぞれの自治体は住宅のほか、待遇改善その他で医師の確保に懸命だが、開業医の所得に比べて割安というネックがあって人気医師の定着を困難にしている。
もちろん、このほかに子供の教育問題や文化的環境への不満等、地方の医師不足につながる材料は減ることがない。
◇国は早くからこれを見通して、各地に自治医大を設けて、地方医の養成と定着を図ったが、効果を発揮しているとは言えない。人口の都市集中は、経済の集中と一体化しており、当然それは教育、文化、医療の集中現象を生む。
地方の医師不足は、ますます過熱するであろうし、同時に大都市の医療施設は増える患者に対応できなくなる公算が強い。
うなぎ上りの医療費は患者が多くなったこと、国民がクスリ漬けになったことと無関係ではない。この際、抜本的医療制度の改革と国民の健康教育の見直しが望まれる。【押谷盛利】
2008年11月15日 19:20 | パーマリンク
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