世界恐慌の危機と日本
日本には昔から「無い袖は振れぬ」という言葉がある。響きは貧乏人の捨てセリフに似ている。借金が積もりに積もってどうにもならぬ。月末も大年になるとあちこちから借金取りが束になって押し寄せる。女房の着物は申すに及ばず、質屋へ入れる質種(しちぐさ)も切れた。
矢のような債権者の声に「どないなとしとくなはれ」と開き直るセリフの一つが「無い袖は振れぬ」。
◇いま世界は米証券大手・リーマンの破綻で世界恐慌の危機にさらされている。リーマンの負債は63兆円に上るというから倒産は倒産でもけたが違う。
世界の経済を動かして荒稼ぎしているとみられ、日本の大手銀行も出資している。
アメリカの出先・日本法人「リーマン・ブラザーズ証券」も連鎖倒産したが、負債総額3兆円は00年の協栄生命の倒産に次ぐ戦後2位だという。金融庁の調べでは出資しているのは法人の機関投資家や個人の大金持ちばかりで、一般の個人は少ないという。
◇あるところには金が集まる、と、これも伝説的に伝えられているが、どの道、金は抱いて暮らすわけでもなく、飲んだり食べたりするにも限度があり、結局、銀行に預けたり、株に投資したり、あるいは相場や不動産に張って利殖することを考える。
手っ取り早い話、国民の払っている年金の掛け金だって、あるいは銀行、信金、農協などへの貯金も、それぞれが金庫に眠らせているわけではない。
世界の金融市場をぬけ目なく探して、少しでも有利に利ざやを稼ぐために投資する。外債などがそれである。
◇世界同時株安は、ちょっとしたきっかけから生じるが、もともとが相場市場というつかみどころのないマネーゲームであるから暴落というリスクはついて回る。
日本は昭和の初期、銀行が次ぎ次ぎ潰れる金融恐慌の苦い経験を持つが、それは、大正期の第一次世界大戦後の好況期のもたらした反動であった。
アメリカの経済破綻が日本の輸出を圧迫し、生糸、絹製品の暴落、米価の低落、失業者増の連鎖不況につながった。株の暴落が銀行の取付騒ぎに発展し、地方の銀行が倒産していった。
◇恐慌は生産過剰などが原因とされているが、それが経済の不況をもたらし、失業者が増え、輸出の不振や商品の滞貨を招き、金融危機、企業の倒産につながり、最悪の場合、社会不安が国民の安全安心感を失わせる。
なぜ、金融危機や株の暴落を心配するのか。それは命より大切と思い込んでいた人々の価値観を根底からひっくり返すからである。
例えば、毎日、所持している株の上がり下がりに血圧を上げ、株価の上昇に生き甲斐と幸せを感じていたはずなのに、ある日、一夜明ければ大暴落し、あれよあれよと気をもむうちに、紙きれ同然の悲哀を感じることが決して誇張ではないからだ。
◇考え方によっては、たとえ株価が暴落して、借りた金が返せなくとも、債権者は命までも取ろうとはしないから、とクソ度胸をきめ込むこともあろうが、これまでの黄金信仰を一挙に踏み潰す精神的混乱は予期せぬ悲劇さえ誘う。
そこへいくと、持たざるものは、ない袖は振れぬから、いかにぼろい話でも乗ることはない。それを「無いものの強み」と片意地を張るが、そういう人を含めて、いろいろな人が混在し、泣いたり、笑ったりするのが浮(憂)き世であり、娑婆である。
結論をいえば日本の経済は上り坂にはならぬ。増税などはもってのほかである。【押谷盛利】
2008年09月17日 16:00 | パーマリンク
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