世継づくりの下司な話
日曜日の夜のNHKテレビは、今、佳境にある。
結婚した篤姫が御台(みだい)さまとなり、薩摩藩の後押しで後継者の誕生を期待される。
今の若い衆は結婚式後、新婚旅行に旅立つが、駅頭で見送る友人たちが「がんばってこいよ」と声援の声を張り上げる。何をがんばれというのか、お互いににたにた笑うが、将軍の正室となった篤姫にもそれと似た声援がある。
しかし、こればかりは当事者能力の問題もあり、寝室の秘めごとにはお側女(そばめ)もノータッチだから、側ははらはらするばかり。
◇江戸城の大奥はわれわれ国民のあずかり知らぬ世界だが、何千人もの女性(にょしょう)が住んでいたというから文字通りの女護(にょご)が島である。
ある日、伝令が入って、今夜は将軍が正室を訪れるという。
将軍は公方(くぼう)と尊称されるが、当夜は多くの茶坊主や女官らを従えて大奥入りをする。あらかじめ用意された寝室へそろりそろりと足を運ぶ。その歩みは一種の行列で、「おなりー」の声を繰り返し響かせながら公方さんは寝室へ入る。
その次に正室の篤姫が白い装束で、これまた側(そば)に仕える女性たちにかしづかれつつ、寝室へ入る。
◇白い装束はありていに言えば寝間着(ねまき)であるが、葬式のお棺の装束にも似て、甚だいろけがない。しかし、これは、わけありで、汚れはありません、純潔な清い体です、との「しるし」と思えばよい。
その辺がやんごとないご仁と、しもじもの世界の違いである。しもじもの寝室での秘めごとは、昔から嫁は赤い湯文字ときまっている。まあ、言葉を分かりやすくすれば腰巻き、裾よけで、パンティーなど無粋なものには縁がない。時代映画でよく出る吉原の遊廓でもそうだが、お女郎衆は、みんな赤い湯文字をつけていた。
湯文字は腰巻きであり、湯文字と腰まきをミックスして「ゆまき」それがなまって「いまき」ともいった。
なぜ、赤い湯まきなのか。赤い色が劣情をかき立てるからである。火事の現場では、女性の赤い湯まき(裾よけ)を振ると火勢が弱まるというエッチな伝説がある。これは火を男と見立てた話のなりゆきで、赤い下着に一瞬どぎもを抜かれ、そっちの方に気が走り、燃える力が弱まるというのである。
◇それはともかく、色気のあるなしは論外。将軍と御台所の篤姫が寝室で顔を合わすが、衝立(ついたて)を境に隣りの部屋に茶坊主や世話係の女房(にょうぼう―女官)が寝ずの番をする。
こんなおかしな環境で、子作りに励めと期待されるご本人たちも気が気でなかろうが、動きや声に耳を澄ましている隣室の当番さんも難儀なお役というべきだろう。
◇先週と先々週のこの寝室の場面を見ると、かわいそうなのは篤姫である。「上様(うえさま)」と彼女はすがるように対座するが、肝心の公方さんはねっからその気にはならず「何か面白い話をきかせろ」とか、「疲れた。わしは寝るぞ」と一人、勝手に布団の中へ入ってしまう。お世(よ)継ぎを、と側が心を砕くが、うつけ者か変わり者か、彼女に手をつけなければ交合はなり立たない。
まさかピンチ・ヒッターを立てるわけにもゆかぬし、かといって、今と時代が違うから人工受精の手もない。
篤姫さま、これからどんな奥さんぶりを見せてくれるのか、世の女性たちは、はらはらして成りゆきを見守るであろうが、ほんまにほんとの話だろうか。
動物も鳥たちも爬虫類も、いや、魚たちですら繁殖期はあり、子育てもする。キン抜きをしない限り、男が女を求めぬということはあり得ない、と思うから、このストーリーの先々のご世継ぎづくりが興味しんしんという下司(げす)なお話一巻の終わり。【押谷盛利】
2008年05月28日 16:25 | パーマリンク
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