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太り腹は医者のつれ

 メタボリック・シンドロームなる舌を噛みそうな外来語。学者か官僚が名付け親であろうが、とかく日本語をはみ出した言葉遣いは賛成しかねる。痴呆症も同様だが、認知症なんて、だれがどう考えてもふさわしくない。
 問題のメタボリック・シンドロームは脂肪太り症候群であろうが、今に始まったことではない。
 ぜいたくの出来なかった戦争中でも腹の出た肥満体の人はおり、子供にセメン樽とあだ名された先生もいた。
 人間だけではない。飼い犬だって、たらふく食わせて、十分な運動をさせなかったら哀れなくらいぶく肥えとなる。
◇お腹(なか)の出っ張った人のサイズを計って、「でぶ症候群」ですよ、と、保健指導をする制度が始まった。
 温泉の湯につかって、入ってくる熟年以上の男女を見るがよい。100%とは言わないが、寒気がするほど「でぶでぶ症候群」のオンパレードである。
 「ほっといてくれ、痩せたら美形があやしくなる」とか、「痩せれば貫禄が崩れるわ」といった声が聞こえそうだが、いやはや、この国は太平である。
◇痩せて、尖って、骨と皮のような飢餓線上にあれば隣人も国家も放っておけぬが、太っているからといって、いちいち国がおせっかいをやいていたら国の台所はいくらでもカネが消えていく。
 カネがないから税金を上げねば、と税制の審議を進める政府が、裏へ回るとお大尽のように気前よくカネを散じるのがよく分からない。
◇このところ評判のよくない厚労省だが、この役所の構造的腐敗の因は学者先生や救国の名医に徹底的にせんたくしてもらうより方法がないようである。
 例えば年金や健康保険のカネをつかって、全国に何百という会館やホテル、サンパレスなどの施設を設けたが、結局いづこも経営不振や管理の不採算から二束三文で民間に売り渡す始末。
 なんでもよいから名目が立てばカネを出しましょう、補助もしましょう、と、お役所仕事は、政策を寄りどころにカネをばらまく事業の立案とその法律を整備する。
 各省庁がそのばらまき競争を演じるから無駄なカネが出てゆくし、役所によっては食べ切れず下痢症状を起こしたりして、事業本来に関わりのない職員の遊びや交通費に回ったりする。
◇再び、元へ戻って肥満症候群を考える。
 太って結構じゃないか、と日本人は考えるがよい。今から60年前、戦争に負けた直後は云うに及ばず、それ以前の日本人はみんなカモシカのようにスマートでたくましかった。
 まだ日本人が太っていないころ、ぼくはアメリカへ行って、びっくり仰天した。太っているわ、太っているわ、スーパーで買い物をする中年婦人の肥満に圧倒された。
 彼女たちの買う牛乳は2㍑、3㍑の大買い。肉もステーキの出来るかたまりを20㌔くらい平気で仕込む。さくらんぼの如きは小さなバケツいっぱいくらいは買い込んでゆく。
 中年婦人のバカ太りはロシアもひけをとらない。なにしろパンにしろ、ジャガイモにしろ腹につめ込む量がちがう。それに減茶、油がお好きときて、どんな料理にも油が惜しみなく使われている。一つは寒さのせいにもよるが、カロリーの摂取量は日本人の比ではない。
◇いま、20世紀に入った日本が、ようやく、太りの先進国に追いつきそうな状況となった。
 お互いの台所を見るがよい。スーパーの売れ筋を見るがよい。外食街の繁忙を見るがよい。店にも家にも糖分は溢れ、あちら好みのバター、チーズ、肉やハム、パンと菓子は多種多様。飲みものはお茶を忘れてビールかジュース。
 子供も大人も朝から晩まで口の動かしづめ、そしてどこへ行くにもマイカー。
 ようやる。本当にアメリカ市民に近づいた。太らない方がおかしいのであります。これが自慢の文明国と思いきや、医療費に音を上げての腹の寸法政策。ああ太平の世の中よ。アフリカを筆頭にひもじく暮らす人々の痩せた体を思い見よ。
 腹の寸法なんぞどうでもよい。「太り腹は医者のつれ」と、宣伝すればそれだけでよい。【押谷盛利】

2008年05月14日 15:41 |


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