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退陣への内濠を埋める

 日銀総裁人事は、すったもんだの挙げく、日銀出身の京大大学院教授・白川方明(まさあき)副総裁の昇格で一件落着となったが、このための空席を埋める副総裁人事は、民主党の反対で潰れた。
 店晒(たなざら)しされた候補の渡辺博史氏は、元大蔵省官僚の財務官で一橋大学の教授。
 福井俊彦総裁の後任として、最初は財務(旧大蔵)次官の武藤敏郎氏が候補に上がったが、民主党の不同意で、元大蔵次官の田波耕治氏に白羽の矢が立った。しかし、これまた大蔵官僚なるがゆえに民主党の受け入れるところとならなかった。
 諺に三度目の正直というが、今回、首相が副総裁にかつぎ出した渡辺氏はやはり大蔵(現財務省)出身のエリート官僚だった。
◇かくすれば、かくなる、ことの分かり切っている人事案を性懲りもなく持ち出した福田首相の腹の中は理解しがたいが、それほどまでに大蔵官僚との縁が深いのか。切るに切れない恩義でもあるのか、その執拗さは異常である。
 民主党が反対するであろうことは、あらかじめ分かっているはずなのに、あえて、討ち死に覚悟で敵前上陸するのは旧日本軍の大和魂だったが、福田さんのしつこさは、やけのやんぱち気味で、百に一つの奇策によって敵前突破を考えたふしがある。
◇その奇策とは、渡辺副総裁案を堂々と提案して、国民衆目の中で、三度目の反対をやるのか、やらぬのか。民主党との大バクチを仕掛けたとする見方である。
 事実、民主党内は、総裁については野党の筋を通して勝利したのだから、いつまでも日銀人事で政治を低迷させては国民の批判を受けるのではないか、と、今回は首相提案に同意すべきではとの声が多数を占め始めた。ことに、鳩山幹事長が同意派であり、反小沢派のほか大勢はそれに傾いていた。
 しかし、その福田さんの仕掛けた伸るか反(そ)るかの大バクチが小沢さんの怒りに火をつけた。
 小沢一郎民主党代表は、この3月国会を政権潰しの好機ととらえ、年金、道路特別会計とからめて、将棋でいう雪隠(せっちん)攻めの大手をかけていた。
 その大手の大義名分は「官僚の天下り反対」なる党の基本方針だった。ことに日本のこれまでの政治は大蔵官僚の主導で展開しており、この根っこの改革がすべての改革路線の入口である、としてきただけに、よりによって、日本の金融、経済の本山ともいうべき日銀トップに大蔵官僚の天下りを許すことは自己矛盾であり、国民への裏切りでもある、との理論から、小沢代表の反対が熱を帯びた。
 小沢代表の我慢のならなかったのは、この副総裁人事で、党が二つに割れ、代表の求心力にかげりを生じさせることだった。
 敵の首が風前の灯(ともしび)にさしかかった段階で、なにを好んで、敵に塩を送らねばならぬのか。戦略を間違えてはならぬ、とする小沢理論が党の最高役員会を支配したのは、民主党の良識といえるのではないか。
◇福田さんは、これまでに3人の候補を店晒しにしたが、その責任は大きい。人事提案権は首相にあっても、国会で同意されねば、当事者には不本意であり、不名誉でもある。
 結果を予測することなく、なにがなんでも自説を突っ張るやり方は強引としか言いようがないが、その強引さも「天下り反対」の声には通じなかった。衆参国会のねじれ現象の認識の甘さは政治家の資質の問題でもあり、退陣への内濠(うちぼり)を自ら埋める愚を犯したというべきであろう。【押谷盛利】

2008年04月10日 18:25 |


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