春と衣被よもやま話
「衣被」と書いて、どう読むのか。その意味は?と問われて正解できる人は相当な博学か物識(ものしり)であろう。
法被は反被とも書くが和服の上着の一種で、「はっぴ」という。すし屋の板前が着ている広袖か筒袖の腰丈くらいの長さで、職人用のもあれば、商店の戒市や大売り出しに店員がひっかけたりする。
法被(はっぴ)が衣類の一種だから衣被もその種のものかな。ヒントを呈示したわけだが、この衣被は単純明快というわけにはゆかぬのでヒントを二つ示しておく。
一つは衣類に関係あり。もう一つは食べ物に関係あり。その上、厄介なのは同じ漢字でありながら発音と意味がちがう。
◇ぼくが突拍子もなく、なぞかけのような話を持ち出したのは、季節的な関係から伝統的な装束(しょうぞく)の一種や食べ物について思い当たることがあり、ことに装束については国際的な類似性が妙に引っかかるので話題に取り上げたまでである。
◇話を元へ戻そう。衣被の読みと意味である。同じ文字ながら読みも意味も全く違うから面白いといえば面白いが、日本語の妙と難しさといえるかもしれない。
衣類に関係のあるのは「きぬかずき」と読む。平安時代ごろから上流婦人は外出するとき、顔を隠すために衣をかぶった。これが衣被(きぬかずき)であり、その衣やそれをかぶった女性を指すこともある。
まあ、いまふうの言葉でいえばスカーフであろうか。なぜ、顔を隠したのか。後段で述べるが、昔の上流家庭は娘をかるがるしく外出させなかった。だから明治、大正のころまでは深窓の美人とか、深窓の令嬢といった。
◇衣被の二番目の読みは「きぬかつぎ」。意味は里芋の小ぶりのものを皮のまま煮たり、茹(ゆ)でたりして、塩味で食べるもの。精進料理にも使うが中秋の名月にお供えする。
わかりやすく記憶するには皮つきの里芋料理と理解すればいいのではないか。
◇さて、現代のスカーフだが、いまは顔を隠すためではなく、一種のおしゃれで男性のネクタイ感覚に似ている。
もともと女性の冬装束の一つに肩掛けがあった。肩掛けではいかにも田舎じみているので横文字ふうにショールと呼ぶが、これは外出用の防寒具の一つで、絹や毛織物を縫ったり、毛糸で編む。もっぱら和服用だが、近年流行しているのが、成人式の振袖姿に顔を埋めるほど肩からかける純白の豪華なショールである。
桜前線がニュースになるこのごろ、防寒用のショールは姿を消し、若い女性は薄手の美しいスカーフを風になびかせる。
同じく季節でいえば「きぬかつぎ」は俳句の秋の季語だが、その里芋も出番は食用ではなく、今は今年の新作用の種芋であり、昨秋、収穫したものは芽が出ぬうちに食べなければならぬ。
スカーフと顔隠し、国際性については次回に述べるが、物知りの方は参考になることがあれば教示して戴きたい。【押谷盛利】
2008年03月29日 13:31 | パーマリンク
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