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リズムと雛祭りの歌

 日本語の難しさの一つに敬語表現がある。他家を訪問したとき、玄関口で「私は○○ですが、ご主人さんはいらっしゃいますか、ちょっとお願いがありまして、うかがいしました」。と自分を名乗り、訪問の要件を伝えるのが普通だが、この場合、ご主人さまの「ご」や「いらっしゃいますか」が敬語表現である。
 これは電話でも同様で、「もしもし、Aさんですか。こちら県の土木課ですが、社長さんにお願いします」、「はい、おりますが、少々お待ち下さい」、「せっかくですが、ただ今、外出しておりますので」などと応えるのが一般のやりとりである。「お願いします」、「お待ち下さい」が敬語である。
 答える側が「ご主人は出かけております」、「お父さんは外出中です」などと自分の家族に「ご」や「お」はつけない。同様に「ただ今、社長さんは出かけていらっしゃいます」と、敬語では答えない。
 用件を聞く場合も「ご用件は何でしょうか」、「よろしければおうかがいしておきますが」と自分については謙遜語、相手に対しては丁寧語、尊敬語を用いる。
◇人間は社会的動物である以上、他人と没交渉というわけにはゆかない。
 朝起きてから夜寝るまで、家族をはじめ、いろいろな人に会い、話す。それが広い意味でのコミュニケーションであり、その仲立ちをするのが言葉であるから、言葉づかいは大事である。
 夫婦の仲でさえ「親しき仲にも礼儀あり」といわれるくらいであるから、一歩外へ出れば、上司、先輩、同僚、友人、その他不特定の人と話す機会が多い。話の仕方によっては、失礼だとか、感じのよい人だとか、相手に印象を与える。言葉が仕事の第一線に立つ人、たとえば受付の人、商店の店員、セール業等の人は客との言葉づかいが売り上げや業績に関わることもある。
 近年、商工会議所や企業などが実施する接遇教育などは経営のプラス効果を重視するからである。窓口は必ずしも受付ばかりではなく、電話口の応対でも、その企業や団体の印象に関わってくる。
◇案外知られていないのは敬語のほかに言葉のリズムである。
 たまたま3月3日は雛祭りであるから、有名な「うれしいひな祭り」の歌詞を参考に取り上げる。
 これは1936年(昭11)、サトウハチロー作詞である。
①あかりをつけましょ ぼんぼりに お花をあげましょ 桃の花 五人ばやしの 笛太鼓 今日はたのしい ひな祭り
②お内裏様と おひな様 二人ならんで すまし顔 お嫁にいらした 姉様に よく似た官女の 白い顔
③金のびょうぶに うつる灯を かすかにゆする 春の風 すこし白酒 めされたか あかいお顔の 右大臣
④着物をきかえて 帯しめて 今日はわたしも はれ姿 春のやよいの このよき日 なによりうれしい ひな祭り
 「お花」、「お内裏様」、「おひな様」、「お嫁」、「お顔」は美称や敬語。
 「お嫁にいらした」の「いらした」は「いかれた」、「お嫁入りされた」の意で姉に対するていねいなもの言い。
 ③の「白酒をめされたか」は「召し上げられた」の意で敬語表現。
 ②の官女は「白い顔」、③の右大臣は「あかいお顔」。官女は仕える女官であり、右大臣はその上司であるから、「お顔」とした。
 この歌詞をあえて取り上げたのは、一節一節にこころよいリズム感があることで、そのリズム感は日本語の特徴である7・5調のしらべで一貫していることである。
 短歌や俳句が、7・5調であるのは知られているが、日本語の演説や会話、その文章にもリズム感があり、それが読むとき、聞くとき、こころよく読み手、聞き手に伝わるのである。
 話をするときは長年の訓練で無意識のうちにリズムよく発音する人がある。
 例えば経験豊富な政治家や僧侶、弁護士などの演説、説教などがそうである。
 文章の場合、とくに小説やエッセイについては意識的に心がける人もあるはず。ぼくの文章を分かりやすいといわれることがあるが、それはリズムを意識して執筆していることによるのであろうか。
 リズムがよいか、どうかは音読、もしくは黙読すればおのずと分かる。
 芭蕉は、できた句をさらに磨き上げるため口の中で繰り返し吟味せよといった。「言葉を千編、口の中で転がすように」と大変厳しい指導をしたが、これは一つには的確な表現をするため徹底的に言葉を推敲せよとの意味もあるが、聞く側、読む側にこころよく響くかどうか、いわゆるリズムにこだわることを強調した教えであろうかと思う。【押谷盛利】

2008年03月05日 13:36 |


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