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無罪か、実刑か(よもやま)

 「身」がつく言葉は無数にある。広辞苑によると「身から出た錆」は自分のした悪行のために、自分が苦しむこと。「身につまされる」は他人の身の上のつらさを自分の境遇にひき比べ、同情すること。「身もフタもない」は露骨すぎて含蓄にないたとえ。「身を尽くす」は一身をなげうつ。「身勝手」は他人のことを考えず、自分の思うままにふるまうこと。「身の潔白を証明する」は正直に話すこと。「身内をかばう」は家族を思う気持ち。
◇長浜で起きた老婦による自転車ひき逃げ事件の公判は3月7日に判決を迎えるが、いままで裁判を傍聴していて、これらの言葉が脳裏をかすめた。
 私はこの事件を1年3カ月間にわたり取材し、幾度も記事にした。この事件を追い続けたのは、これから増え続けるであろう高齢者(認知症)ドライバー問題を読者に提起したかったからである。
 当初は単なる衝突事故ですぐに結審すると思われていたが、事態は思わぬ方向に展開。75歳の被告は物忘れが多く証言が二転三転し、時には争点が本筋からずれてしまうこともあった。
 検察側はひき逃げ犯は被告と断定。一方、弁護側は自転車との衝突は認めるものの、放置して逃げたことを否定。調書内容は取調官のでっち上げだとして、全面対決となった。
 両者の言い分が異なるのは車の速度や衝突後の被告の行動など。検察は被告が時速15㌔程度で被害者をはねあげ、ボンネットに乗せたまま、10㍍ほど走行。路上に落ちた際、頭を強打し、これが致命傷になったとしているが、弁護側は自転車の損傷が少ないことなどを理由に、車の速度は時速5㌔程度と推測。被告は降車して声をかけたが、被害者から「元気やから、行っておくれやす」と言われ、握手してその場を去っており、被害者は無事だったと言い、調書内容は死亡に至った経緯が不明瞭で、時間にズレがあり、衝突と死亡の因果関係は認められず「他に犯人がいる」と主張している。
 しかし、第一発見者の中学生が現場にかけつけたのは衝突音のわずか20~30秒後。倒れていた被害者は口から出血し、声をかけても意識はなく、病院に搬送された被害者のベッドは真っ赤に染まっていた。
◇1日の公判では被害者の長男らが悲痛な思いを被告や裁判官にぶつけた。
 母の命が奪われたのは事実。寝る間を惜しんで私たち兄妹を育ててくれた母。これから恩返しをと思った矢先のできごと。苦しくて苦しくてたまりません。
 帰宅すると「お帰り」「寒かったやろう」と声をかけてくれた母がいなくなり、ぽっかり穴が開いたようです。事故は理不尽で不幸のどん底に突き落とされたようです。
 被告は事実を曲げず、真摯に受け止めてほしい。一度の謝罪もない。証言は二転三転するし、自分を擁護するばかり。1年2カ月間、耐えてきた気持ちがわかりますか。
 証言台に立った遺族たちはあふれる涙を拭いながら、こう叫んだ。
◇車を運転するのは年寄りも若者も関係ない。逃げ得は許さない。他人事ではない。明日はわが身。誰でも起こりうること。高齢者事故は反射神経の鈍さが輪をかけ、考えられない事件につながる。
 じっと、遺族の話に聞き入っていた被告は、最後に裁判官に陳述を許されると検察官を鋭い眼光で睨みつけ、こう話した。
 「当たりましたが、ほっといて逃げていない」。
 検察側の有罪論告に対して無罪を主張する弁護側。双者の言い分はまったく異なり、どのような判決が下されるか、注目される。

2008年02月10日 14:25 |


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