アメリカ下層教育現場(見聞録)
「学級崩壊」という言葉が登場して久しい。その原因については教師の指導力の低下、子どもの人間関係や発達障害などが指摘されているが、とりわけ、家庭や地域でのしつけが問題視されている。
保護者の過保護、過干渉、育児放棄、近所付き合いの希薄化などで▽学ぶ▽目上を敬う▽和を尊ぶ―など、家庭や地域で醸成されるべき常識が身に付かず、特に学級崩壊が小学校低学年で発生していることを考えても、原因は教育現場にあるというより、家庭や地域にあるのではないだろうか。
◇教育現場の崩壊が、日本以上に進行しているアメリカの現状を、フリーライターの林壮一氏がその著書「アメリカ下層教育現場」(光文社新書)でレポートしている。
同氏は1969年生まれ。プロボクサーを目指したがケガで挫折し、週刊誌記者などを経て、フリーライーターに。1996年に渡米し大学に通いながら、スポーツジャーナリストとして活動。大学卒業後、恩師の誘いで高校の講師になった。
◇勤務地は、ネバダ州のギャンブルの街リマにある「チャーター・スクール」。
同スクールは地域の実情に応じて設立された公立学校で、林氏によると、中学時代に成績が悪かったり、高校の授業についていけない低学力の生徒が集まっているという。
林氏の前任者は生徒のあまりの学力レベルの低さ、道徳心の無さに愕然とし、1カ月も経たないうちに逃げ出していた。
そして林氏が目の当たりにしたのは、貧困、崩壊家庭といった絶望的環境の中で希望を見出せず、毎日を無気力に過ごす生徒の姿だった。生徒の学習意欲の欠如は著しく、授業中にゲームや音楽、遊びに興じ、注意されれば教室から出て行く。
日本文化の授業を受け持った林氏は、アニメや漫画、相撲などをテーマに生徒の関心を引き出して授業を進めるが、生徒の集中力は長くても50分しか持たず、2コマの授業のうち、1コマは公園で一緒に遊ぶという具合になった。
◇この街はメキシコ人が多く、それに伴う人種差別のほか、シングル・ペアレント(1人親)、育児放棄、貧困など、アメリカの抱える課題を凝縮している。
林氏が受け持った生徒19人のうち、実の両親と暮らしているのはたった1人。18人は、シングル・ペアレント、再婚、里親家庭だった。
特に貧困層のシングル・ペアレントは日々の生活に追われ、子育てに手がまわらず、子ども達はついつい怠け癖がついてしまう。林氏が受け持った生徒も小中学校時代に学校をサボりがちになり、チャーター・スクールに拾われたものの、怠惰な生活から抜け出せなかった。
林氏は、これらの子ども達を、無責任な大人による被害者だと訴え、子ども達が大人になり、結婚し、自分の子を持てば、その子も同じ運命を辿りかねないと指摘している。
◇結局、林氏が受け持った生徒のうち、予定通り卒業できたのはたった1人。残りの18人は中退、転校、留年となった。
同氏は日本についても▽少子化による過保護▽しつけの出来ない親の増加▽週5日制のゆとり教育による学力低下▽自己中心的な保護者による学校現場への口出し―などを指摘し、今の教育を憂えている。
アメリカの影の部分を実体験に基づいてレポートしたこの著書は、日本教育の行く末を案じているようでもあった。
2008年02月05日 13:32 | パーマリンク
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