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ピアニスト辻井伸行(見聞録)

 先週の金曜、米原市の県立文産会館でピアニスト辻井伸行さん(19)のクラシック・コンサートが開かれた。
 小欄はクラシック音楽に無知だが、彼は盲目のピアニストとして、幼い頃からテレビ番組で取り上げられていたこともあり、以前から興味があった。
 昨年の秋、デビューアルバムをリリースし、現在、国内ツアーの真っ最中。湖北にもやってくるというので、この機会に是非、彼の生演奏を聴いておきたいと、足を運んだ。
 過去に何度かクラシック・コンサートを鑑賞したことがあったが、彼がピアノを弾く様は他のと違っていた。というのも、まるで音楽という海を泳ぐような、音楽という空を飛ぶような、何とも気持ち良さげな表情で鍵盤を叩くのだ。
◇彼は1988年、東京生まれ。生まれつき目が不自由だったが、音に対する感覚が敏感で、4歳からピアノを習い始めた。7歳で全日本盲学生音楽コンクール器楽部門ピアノの部で1位入賞し、10歳で大阪センチュリー交響楽団と共演し、鮮烈なデビューを飾った。
 12歳でソロ・リサイタルを成功させ、国内で演奏活動を活発化させると同時に、米ニューヨークのカーネギーホール、ロシアのモスクワ音楽院など海外でも活躍。
 2005年、ワルシャワで行われたショパン国際ピアノコンクールに最年少で挑戦し、「批評家賞」を受賞したのは記憶に新しい。
◇目の不自由な音楽愛好家のために点字の楽譜が出版されているが、彼は読むのに時間がかかるという理由で、実際に音を聴いて曲を覚えるという。
 彼の好むショパンは、楽譜通りに弾いただけでは「ショパン」にならない。音にどのように命を吹きこむか、表現力が必要なのだそうだ。
 音楽評論家・道下京子さんは「彼は目が不自由であるが、そのことは彼のキャリアにまったく問題にならないし、逆に彼の生来的な繊細な感性を更に研磨し、私たちには捉えられない音の波動を通して音楽を形成しているように感じられる」と彼を評している。
◇文産会館でのコンサートの曲目はショパン「スケルツォ第2番」、ベートーベン「月光」など。満席の客が見守る中、エスコートの腕に手をかけて登場した彼は、ピアノの前に座り、手で鍵盤の位置を確かめた後、一気に弾き始めた。その音色は優しくて柔らか。
 演奏が終わるたびに立ち上がり、ちょっと恥ずかしそうな、それでいて満足気な笑顔を見せながら、客席にお辞儀をしてみせる。ピアノの縁に手を添え、先ずは正面に、そして、慎重に角度を変えて両翼に向けて。プロ音楽家として新たなスタートを切ったばかりの初々しい姿がそこにあった。
 アンコールの拍手に応え、自作曲「川のささやき」を披露した。彼は、川の流れる音や鳥の声を聴くと、自然に頭の中で音楽が浮かぶといい、この曲も父と散歩中に聞こえてきた川のせせらぎの音をイメージして作曲した。目をつむればその情景が伝わってくる。
◇以前、テレビ番組で「人に感動を与えるピアニストになりたい」と語っていたが、文産会館では涙を浮かべる鑑賞者もいた。彼の更なる飛躍を期待したい。

2008年01月29日 16:25 |


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