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ほんものの「かきもち」

 元・菓子屋のNさんから手作りの「おかき」を頂いた。
 このごろはスーパー、土産屋、百貨店、どこでも多彩なおかき売り場が人気を集めているが、むかしから農村で伝えられている手作りのおかきと比べたら、その味は天と地ほどの開きがある。
 どちらがうまいかは、いうまでもない。手作りの味にまさることはないが、いまは、そのおいしい手作りを知る人が少なくなった。
 手作りのおかきは正しくは「かきもち」という。
◇正月用の餅ですら家で搗(つ)くことをしなくなったから、かき餅など面倒なことをする人は滅多にない。
 戦前はいまでいう「おやつ」を菓子屋で買うことのできる人はゆとりのあるお金持ちだけで、大方は家で山や野の幸を工夫して自家生産した。
 例えば、さつま藷は手ごろなおやつで、煮る、焼く、蒸す、揚げるなどしたが、長く保存するためには「いもするめ」といって、水分をふくませた、ふかし藷を薄く切って、天日に長くさらして乾燥させ、白い粉が吹くころ、仕舞っておいてそのままか、焼いて食べた。
◇農村ではどの家でも吊し柿をして、子や孫のおやつにした。
 そら豆、大豆などもおやつに重宝(ちょうほう)がられた。ばい(かやの実)、銀杏(ぎんなん・いちょう)も干して貯蔵し、冬のおやつにした。
◇市販のおかきは、甘み、辛み、いろいろと客筋に合わせて研究の成果を競っているが、子供よりむしろ大人が喜ぶ。それというのも今の菓子は甘くて上品すぎるので、大人たちは、甘みを抑えたあっさりしたものを好むようになったからである。
 菓子類の多種多様さは驚くばかりで、ことに近年は洋菓子が若い人や女性に好まれるので市場を延ばしている。
 このような菓子メーカーの近代製品に対して、昔ながらの「せんべい」や「ウイロ」「田舎まんじゅ」「あんこ餅」への需要を継続させているのは、いまだに塩さばや干しだら、塩鮭(さけ)、めざしいわしの好まれるのに似て面白い。
◇プロの和菓子屋さんだったNさんからかき餅つくりの秘訣を聞いたが、さすがに市販のものとは手間、ひま、条件が違う。
 原料の餅は、その年の新餅米ではなく、前年の古餅米を使うのがベスト。味つけに入れるのは化学調味料類は一切用いず、天然の塩と砂糖、それも薄味にして、それに大豆とか、海藻、ごま、よもぎなどで風味をつけたり、色彩感を出す。
 よく搗(つ)いた餅は適当な厚み、幅、長さに固めて、やや固まったころに薄く、けずるように切ってゆく。3㌢×5㌢くらいの大きさに切ったのを陰日(かげび)で何日も長く干すのがコツ。じかに風に当てたり、日に当てると割れたりしてうまく干し上がらない。
 したがって、家の中で一枚、一枚吊して干さねばならぬから大変な手間と行程を要する。 手作りの本当の味を知る人は少なくなったが、いまも岐阜、長野県等の奥地の観光地の土産屋に売っていることがある。
 手に入れても焼き方にコツがあり、一番いいのは火鉢の火で焼くこと。金網の上で、ふくらんでゆくのを見ながら、ひっくり返し、また元へ戻し、再び、ひっくり返し何回となく繰り返し、ほんのり狐色に焼くのが最高。
◇かきもちはほんの一例だが、今の日常生活の食品はすべて、家での手作りが影をひそめ、一切合切、市販の加工食品に依存するようになった。
 手を使うこと、面倒なことを排して、らくして、うまいものを、と考え、業者はその心をつかんで、工夫に工夫を重ねる。そのうちほんものの味を忘れ、旬(しゅん)のものを知らなくなってゆく。
 ぼくのいう反自然だが、その報いは知らず知らずのうちにわれわれの健康障害に現れてくるが、おろかにもそれにすら気づかない。

2007年02月17日 17:06 |


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